金平茂紀氏(TBSテレビ執行役員「報道特集」キャスター)

日本政治は劣化している。

金平茂紀氏(3)3提言

 「私の基本的な考え方は、日本の政治は劣化している、ジャーナリズムも劣化している、そしてアカデミズムも劣化している。新聞、テレビ、ネット、アカデミズムが相乗的に劣化を起こしている。これでは日本は良くならない。
 2008年に亡くなった筑紫哲也さんが「ニュース23」という番組の最後の回で次のことを言った「ジャーナリズムの役割は、大きな権力に対して監視の役を果そうとすること、とかく一つの方向に流れやすいこの国で少数派があることを忘れないこと、多様な意見や立場を登場させることで社会に自由の気風を保つこと」と言った。これが筑紫哲也さんの遺言となった。
 しかしこの3つの言葉は現在、全部裏切られている。今私たちの社会は逆の方向に向かっている。監視の役割を果たしていない。少数派に対する目配りがない。多様な意見や立場を伝えていない。そのことによって、どんどん自由が奪われているというのが私の認識だ。
 私なりにまとめると、ジャーナリズムの役割とは、まず権力の行使の有り様を監視すること、英語ではwatchdogで「番犬」という意味で--権力のありようを市民の立場から監視するという役割。次に少数派の声に耳を傾ける。マイノリティに対して配慮のないところに民主主義はない。多数の意見しか顧みないのは民主主義ではない。多様な意見を軽視してはいけないのは、いろいろのもの見方やあり方を創造するのが社会のより良いあり方です。また、今、何を考えるべき議題は何かを優先順位と共に提示することです。

 現在のメディアの位置は?
 その意味で、皆さんに是非見ていただきたい映像がある。今現在のメディアのあり様が、どういうところに位置するかを考えていただきたいからだ。
 というのは、最近これとは真逆のことが私の関係するところで起きた。今年、参議院選挙の前に私たちの局が自民党から取材拒否を受けた。「ニュース23」という番組の小さい特集の扱いが公平性を欠いていると自民党がクレームをつけてきて、TBSには自民党のある地位以上の人間は一切取材に応じないと言ってきた。それで、これから見ていただく映像をよーく見ておいてください。(この後、41年前の1972年6月17日の退任会見「新聞記者は出て行ってテレビだけいればいい」と言った佐藤栄作首相のビデオを紹介)
 このように会見は新聞記者が全部出て行った後にNHKの中継カメラとテレビ局のカメラだけが残ったので、このような映像が残された。これは日本のジャーナリズム史上初めて新聞が喧嘩を売られた。君らは偏向しているから大嫌いだ出てけと言われた。
 彼がよく言ってたのは「紙になると偏向する。テレビはそのままを伝える。国民に直接呼びかけたい。だからテレビはもっと尊重するから前に出てこい」。これは41年前のことです。この頃、テレビはずっと前に来てた。
 でも41年経って私が考えるに現在、テレビは「watchdog」から「愛玩犬」になった。良くない状況だが、テレビメディアが権力者や政権与党のペットになった。また新聞は喧嘩をしなくなった。ああいうことを今の新聞記者はやらない。記者会見の間、記者はキーボードを叩いているだけだ。相手の目も見て欲しい。この話の背景は何かを考えて欲しい。
 また、ネットは編集なしに、そのまま出演者、政治家の言いたいことを長時間伝える。これはネットメディアが政治家に擦り寄った結果だと思う。
 もう一つは、当時と比べるとアカデミズムがマスメディアとの健全な緊張関係を保持し得なくなったと思う。
 提言として4つ挙げます。
(1)「公共財」としての意識回復。(2)メディアの間の壁をとっぱらう。
(3)個の自立。(4)外とつながる。