■講演テーマ:「KADOKAWAのトランスフォーメーション
          ~そして、Co-Operated Mediaとは」
■講師:盛田 勉(もりたつとむ)さん (92年文学部新聞学科卒)
     株式会社KADOKAWA メディア&インフォメーション事業統括本部
    メディア編集局統括局長
■日時:2014年1月22日(水) 18時30分~21時
■場所:ソフィアンズクラブ
■参加者数:30名

写真㈰正面盛田さんRIMG65904
盛田勉さん

2014年最初の三水会にふさわしい株式会社KADOKAWAメディア編集局統括局長の盛田さんの講演は、社名「角川書店」を昨年横文字の「株式会社KADOKAWA」に変更した同社の多岐にわたるメディア戦略について話され、話題満載であった。

まず、盛田さんは「KADOKAWAのトランスフォーメーション」というテーマに沿って、同社の歴史と多岐にわたる事業内容を具体的に丁寧に解説された。後半にご自分が担当されているCo-Operated Mediaの実例も紹介され、三水会の翌日にプレス発表会があり大変話題になったスマホ向け無料週刊誌『週刊ジョージア』のコラボ企画についても触れられた。

報告録では、掲載しきれないのが残念だがキーワードを中心に紹介したい。

写真㈪オープニングRIMG65913
講演会オープニングの様子

「8826クラスの新聞学科で92年卒業です。会社に入って20数年です」という穏やかな口調の自己紹介から、講演は始まった。

▼ “出版”は 禁句という現在の「株式会社KADOKAWA」の紹介とその変遷

「“出版”という言葉は使わないようにしています」という盛田さんの最初の一言が、現在の「株式会社KADOKAWA」を象徴しているようだ。「角川書店」は、1945年に創立された国文学関係の硬い文芸書の出版社だったが、昨年9社と合併し「株式会社KADOKAWA」に社名変更した。元々の「角川書店」として中核を担った文芸を中心とした出版事業は、現在は「角川書店ブランドカンパニー」というグル―プ子会社のひとつにしかすぎない。

「株式会社KADOKAWA」は、どのように変貌してきたのだろうか?KADOKAWA グループの沿革を7期にわけた図をみながら、映画製作、情報誌やネットによる発信等々、多角的な事業展開を、ヒット作品や具体的な時代背景もまじえて盛田さんは解説された。確かに出版を超えたマルチメディア会社に変革―トランスフォームされた企業グループといえるだろう。

①KADOKAWAグループの沿革
資料:KADOKAWAグループの沿革(クリックで拡大)

今ではKADOKAWAは、最先端のメディア事業グループというイメージが強いが、書店との連携による販促活動がその成長の基盤にあることは老舗の「角川書店」ならではないだろうか。現在では、映画やTV番組等をノベライズする手法は、当たり前かもしれないが、書店の店頭で映画やTV番組の宣伝を行う等、異なるメディアのコラボによるキャンペーン手法は、同社が先駆けだったことを強調された。

単に角川書店という出版社のKADOKAWAへの変遷の歴史というより、日本の社会現象の変遷史のようで、会場全員その時代を思いだしながら、盛田氏の説明に聞き入った。同社が時代の牽引役であることが印象づけられた。

さらに現在の事業体制についても、組織図や、メディアやスマートフォンを使用した映画館での新しい仕掛けについても説明された。同社の強みについても触れられた。

②KADOKAWAグループ概要
資料:KADOKAWAグループ概要(2014年1月現在)(クリックで拡大)

③KADOKAWAの強み①
資料:KADOKAWAの強み①(クリックで拡大)

④KADOKAWAの強み②
資料:KADOKAWAの強み②(クリックで拡大)

▼『シュシュ』など各種雑誌編集長を歴任しメディア編集局統括局長に就任

「最後に私自身が何をやっているのかご紹介しましょう。1995年くらいからカスタム誌を担当しています」とご自分の経歴と担当されている企画について説明があった。

盛田さんは、‘92年 (株)ザテレビジョン(現:(株)KADOKAWA)に入社。『ザテレビジョン』編集部の後、カスタム誌、タイアップ制作担当 角川映画プロモーション、新雑誌企画担当、カスタムメディア担当部長、『シュシュ』編集長、『ファミリーウォーカー』編集長等情報誌の編集長を歴任され、 2013年メディア編集局統括局長に就任された。

現在担当されているカスタム誌の草分けは、1983年1月創刊の『ザテレビジョン ダイジェスト』。日本生命のセールスレディにも活用いただいているものだ。多いときは約200万部近く。現在はその半分ほどに減少したが、今後もこのような企業向けのカスタム誌や企業のフリーマガジンに特化する事業を拡大していくという。

今回の三水会黒水幹事の会社WOWOWの会員向けプログラムガイドも担当されているという。会場には、盛田さんが担当したカスタム誌やフリーマガジンのサンプルが多数紹介された。普段公共の場で目にするものから、学生向けのものまで、多岐にわたっている。盛田さんの活躍ぶりをうかがわせた。

写真㈬講演の様子RIMG65920
講演の模様

ところでフリーマガジンは広告収入で成り立っているが、関係誌としてANA等航空会社の機内誌、高速道路のラックに月100万部以上おいている『ハイウェイウォーカー』、地下鉄の駅にある『メトロウォーカー』(東京地下鉄株式会社発行/企画制作KADOKAWA)、また、大学の情報を高校生向けに発信している『キャンパスウォーカー』等があげられた。

特に『キャンパスウォーカー』は、本屋での販売をやめて、高校に無償で送ることにしたという。売上はゼロになり送料コストがかかることになるが、無料だと学校の先生が生徒に必ず配布してくれるので、確実にターゲットの高校生に届くという。内容を相手に伝える結果のほうを重視したようだ。

⑤企業カスタムメディア制作・運用実績
資料:企業カスタムメディア制作・運用実績(クリックで拡大)

▼新しいコンテンツに全力投球―スマホ向け電子マガジンを発表

また異業種とのコラボでの新しい企画つまり、Co-Operated Media(共同運営型メディア事例)の事例として『クイズアニメ王』決定戦への監修業務、池上永一氏作『テンペスト』を活用した新たな着地型観光サービスの開発事業などが紹介された。

⑥Co-Operated Medea (共同運営型メディア事例)①
資料:Co-Operated Medea (共同運営型メディア事例)①(クリックで拡大)

⑦Co-Operated Medea (共同運営型メディア事例)②
資料:Co-Operated Medea (共同運営型メディア事例)②(クリックで拡大)

メディアも作れてコンテンツも作れるという事例として、1月23日、三水会の翌日に発表された某メーカーのスマホ向け電子マガジンも紹介された。発表前のため、固有名詞は当日の講演では一切はぶかれて説明されたが、翌日このキャンペーンは大きくTV や雑誌、新聞に掲載されていた。

KADOKAWAと日本コカ・コーラ社のコラボで1月27日創刊「週刊ジョージア」というスマホ向け電子マガジンの紹介だった。30-40代の男性がターゲット層で、平日は毎日更新され、コンテンツはグラビアをスマホでやるので触ると写真が変わったり声がでる等の工夫があり、まんがサイトやいろいろな雑誌の内容を先取りするような企画もあるという。

日本の出版市場は、最盛期2兆円以上の売り上げが最近は1兆円6千億円と減少傾向になっている。そのためKADOKAWAは、今後3年~5年かけてデジタル中心の会社にする計画で、その中でも「KADOKAWAが特に重視するのはコンテンツである」と最後に強調された。グーグル等大きなプラットフォームをもった会社が強者のようなイメージがあるが、コンテンツがなければ存在価値はないということだ。「デジタル化という会社の方針の中で、異業種企業とのキャンペーンコラボ等の新しい提案を積極的にしていきたい」と盛田さんは最後に抱負を語った。

▼質問コーナー

ここでは、電子書籍・マガジンの仕掛け、収益構造、海外展開等、今後についての意見交換があった。日本文化を守るための日本電子図書館サービスという新会社の試みについても述べられた。

学生時代は新聞学科で、マスコミ業界でも報道部門も夢見たが、植田康夫先生(元上智大学教授、現週刊読書人編集長)の最初のゼミ生になり出版社、作家を紹介いただき勉強させてもらった。サークルはアイセックに入りグローバルな活動にも携わったそうだ。

写真㈯質問コーナー 加藤さんRIMG65952
質問コーナー・会場の模様

▼感想

KADOKAWAグループは、長いカタカナ文字の社名が多く複雑な会社という印象はある。劇作家井上ひさし先生ならカタカナを使わず、わかりやすく簡潔にとでも、おっしゃるだろうなと思ったが、老舗のブランド力を活かしながらコンテンツにこだわり、電子化しを進めていくKADOKAWAの動きと盛田さんの活躍に今後も注目したい。

写真㉀懇親会RIMG65960
懇親会の様子

▼【追加情報】現在話題のKADOKAWAとドワンゴの経営統合について

講演から4ヶ月後の2014年5月14日、KADOKAWAはKADOKAWAとドワンゴの完全親会社となる株式会社KADOKAWA・DWANGO(統合持株会社)を設立する方法により経営統合すると発表した。これにより新たにKADOKAWAの親会社が設立されることになる。

ドワンゴとの経営統合の背景について盛田さんから話を伺うことが出来た。

「ドワンゴとKADOKAWAはそれぞれネットとリアルで、コンテンツとプラットフォームを手がけてきました。そこが相性のいいところ。KADOKAWAとしては、コンテンツをベースとするプラットフォーマーにつながります」

彼はこう述べられた。さらにトランスフォメーションを続けるKADOKAWA・DWANGO社の動きに注目したい。

(参考リンク)

●週刊ジョージア
・http://ir.kadokawa.co.jp/topics/20140123_geswk.pdf
・http://weekly-g.jp/pr/

●ドワンゴとの経営統合についてのプレスリリース
・http://cdn.kdkw.jp/release/20140514_adais.pdf

(レポート:1977年外独 山田洋子)