asf2015_IMG_0897写真は上智大学内SJハウス「クルトゥルハイム聖堂」

 安保関連法案(11本)が16日衆院・本会議で可決され、参院へ送られることになった。ほぼ、どの新聞社の世論調査でも「法案への理解」が進んでいない。毎日新聞の例では「今国会での成立に反対」が61%、「政府・与党の説明は不十分」が81%。安倍晋三首相もこれを認め「こんご国民の理解を求めたい」と述べている。

「明白な危険とは」
 この報道の中で「明白な危険」という概念を初めて知った人がいると思う。これはアメリカで1919年、連邦最高裁のオリバー・ホームズ判事が考え出した概念(原理)である。第一次世界大戦中の1919年、社会党のシェンクス書記長が「徴兵拒否」を説いたパンフレットを配ったため、防諜法第三条によって有罪とされた。(シェンクス事件)

 しかし、同じ年、ロシア革命に関連して、米国軍隊をシベリアに派兵することに反対して、ロシア移民エイブラムズら四人がパンフレットを配ったこと(エイブラムズ事件)について、ホームズ判事は「戦争遂行を妨害することを意図したのではない。むしろ言論の自由の見地から無罪である」と判断した。

 「明白な危険」とは具体的にはどのような事態か?安倍首相は「総合的に判断する」と述べるに止まり、誰がどのような基準で判断するかは、明確にしなかった。これでは、全て時の政権が「秘密保護法」によるブラックボックスの中で「恣意的」に判断するかもしれず、国民も国会も知らぬ間に「戦争」に巻き込まれることになりかねない。

 アメリカで考えられた「明白な危険」の概念は「言論の自由」との微妙な関係で成り立っている。「明白な危険」とは何か?どのような基準で判断するか、そうした議論を参院で期待したい。

「国民を守るというがー」
 更に、安倍首相は「日本人の安全を守るための法律だ」と言っているが、海外でボランティア活動をしている日本の民間人は、これまで、日本が「武力行使をしない国」であることで現地の人々から信頼され攻撃を受けなかったという。勿論、犠牲者はゼロではなかったが、今後、この法律が成立し「自衛隊」が武器を持って交戦することになれば「敵」「味方」が明白となり「敵」として激しい攻撃を受けることになるのではないか?これまでにも「ドイツ」など武装している国の軍隊は少なからぬ戦死者をだしている。

 さらに審議の内容にも、多くの問題点が出た。首相のはぐらかしの答弁。「早く質問しろよ」という野次。自民党の勉強会で、講師・百田尚樹氏の沖縄を代表する二紙に対して「つぶさないといけない」と発言したこと、などなどー。

 特に、首相がアメリカの国会で八月までに安保法案を通すと述べたことも異常である。日本の国会も無視し、日本国民をバカにしているとしか見えない。

「自衛隊員の安全確保は?」
 さらに、大切なことは世界中に派遣されることになるであろう自衛隊の安全を十分に検討しなければならないことである。

 イラクのサマワに派遣された自衛隊員約5,480人のうち、現地で21人が自殺したという。更に帰国後、普通の社会生活に戻った時、ギャップの大きさで精神の均衡を崩して自殺未遂や精神を病むものも少なくない。(元自衛隊中央病院精神科部長福間詳氏 朝日新聞7月17日朝刊17面より)

 武器の使用で人を殺すことにもなるのでPTSD(心的外傷後ストレス障害)などに考慮して万全の体制を整えなければならないが、その議論があまり行われていない。

 自衛隊の目的が自衛であったのが、地球の裏側へも出動することもあり得る。アメリカの代理戦争にも突入することがあるかもしれない。もちろん日本は国際的な協力は必要だが武力だけでなく、文化など多方面の道があろう。少なくとも参院では、いままでにない誠実な討論を期待したい。今日までの内閣と国会が積み上げてきた憲法解釈を、一内閣の判断で変更してはならない。
(武市英雄 ’60 文英 新聞学者 メディア論 上智大学名誉教授)