■講演テーマ: 新しいまちの暮らし方を目指す;生活をシェア(分かちあう)する思想の実践
―「okatteにしおぎ」スタート―
■日時: 2015年6月17日(水) 18:30~21:00
■場所:ソフィアンズ・クラブ
■講師: 竹之内祥子(たけのうちさちこ)さん(78年文学部英文学科卒)
(株)コンヴィヴィアリテ 代表取締役
(株)シナリオワーク 代表取締役
■参加者数:30名
<プロフィール>
竹之内祥子(たけのうちさちこ)
1980年上智大学大学院文学研究科博士前期課程卒業。1982年㈱シナリオワーク設立。その後同社取締役、個人事務所設立を経て、2003年㈱シナリオワーク代表取締役に就任。女性消費者を中心とする消費者研究、マーケティング戦略立案などのプロジェクトを手がけ今日に至る。2015年4月㈱コンヴィヴィアリテを設立し、「okatteにしおぎ」をオープンする。
「okatteにしおぎ」
公式サイト
http://www.okatte-nishiogi.com/know.html
Facebookページ
https://www.facebook.com/okatte.nishiogi/
司会(佐藤幹事)「今回講師にお願いした竹之内さんは、まちのシェアキッチン&リビング・プロジェクト「okatteにしおぎ」を立ち上げられ、この春西荻窪にオープニングされました。聞くところによるとこのプロジェクト「まちのシェアキッチン」という新しい発想は、地域の人を呼び、人と人をつなげているそうです。「食」を中心にしたまちのパブリックスペースというコンセプトも話題を呼んでいます。このスペースでは、食事をつくりたい人が集まる。イベントを開きたい人が企画する。小さいビジネスにトライしたい人が場を活用する。そんな人と人の出会いのスペースの仕掛人、竹之内さんに発想の原点やこれからの発展イメージなどをお聞きしたいと思います。ちなみに竹之内さんが作られた会社「コンヴィヴィアリテ」の意味を調べたところ、『会食の楽しみ、共に飲み食いする楽しみ』、日本語では『一期一会』という意味があるそうです」
(写真 オープニング)
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竹之内さんの講演を聞きながら現在世界で進行している新しいライフスタイル・シェアして暮らすことを身をもって実践されていることに感心した。以下は私なりに纏めてみた。
▼「okatteにしおぎ つくって食べる、みんなの“お勝手”」
「okatteにしおぎ」は、竹之内さんの自宅を改装し、2階をシェアハウス、1階をシェアキッチン兼集会室に改築したスペースである。もともと4人家族が住んでいた住宅を、家族構成も縮小してきたこともあり、構造は変えずに外壁を杉板張りにして、南側にキッチンと土間を増築、LDKだった空間を板の間と畳スペースにした。BEFORE・AFTERの写真や図面で構造や内部が紹介された。内装、外装には、国産の杉、桜等、自然の材木を使い、昔の日本の民家のような感じになっている。竹之内さん自身「とても気持ちのよい空間で気に入っている」そうだが、特にキッチンには業務用のガスコンロ、イタリア製のオーブンもいれ、営業許可も取ったという。
「okatteにしおぎ」の案内を見ると
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単身世帯が増え、孤食・個食が一般化した昨今、家族や世帯を単位とした共食も難しくなっています。okatteにしおぎは、地域で食を共にする「まち食」を中心にして、日常の暮らしの一部をシェアしながら、まちと関わって暮らす「まち暮らし」を提案します。そして、かつては女性のための場所だった「お勝手」が「まちの関わりの拠点」という現代の新たな役割をもって、老若男女問わず多種多様な人々が気軽に立ち寄る場所となり、「人と人」「人とまち」「人と自然」とが関わり合いながら育っていく暮らしを実現してまいります
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とある。
▼今、なぜ「okatteにしおぎ」か
2年ほど前、竹之内さんは、次の3つの問題につきあたったという。
一つ目は、相続税対策。もし親御さんに何かあれば相続税が重くのしかかってくることが心配で、銀行に相談にいったところ、アパート経営を進められたが、どうもぴんとこなかった。
二つ目は、自分に残された人生、あと10年? 竹之内さんは、一昨年病気で手術をした時、もし平均寿命まで生きるとしても、自分が元気でいられるのはあと10年くらいかもしれないと思い、その残された10年間に何か面白いことをやってみたいと思うようになった。
三つ目は、これまでの仕事であるマスマーケティングの限界について。実際、時代の潮目が変わっていることを感じ、いわゆる消費社会とは別の方向性を模索したいと思い、今回の企画を考え始めたという。
そしてその結果、次のようなキーワードでアイディアを模索し始めたという。
1. シェアハウス?下宿? 2.いろいろな人が集まる場 3.食×スモールスビジネス
▼「okatteにしおぎ」のコンセプトを煮詰める
「まずは、アパートを新築する予算の半分でリフォームをしてシェアハウスにしようかと思っていました。ヨーロッパ映画にでてくるような下宿屋のおかみさんもよいかなと(笑)」ただ、シェアハウスだけでは面白くないとも思ったという。
「周辺は昭和に開発された住宅街で、高齢者が一人で大きな家に住んでいたり、核家族で家族が煮詰まっているように見えることもありますが、そういうことは、あまり表にでてきません」。そこから、シェアハウスと合わせて、皆が集まれるコモンスペースを併設したいと思った。
仕事柄、食関係の潮流を長年見てきたが、マスを相手にする企業ではむずかしい個食化への解決策をそうしたスペースにキッチンをつけることで提供できるのではないかと考えた。同時に、食の仕事をやりたくても場がないとか、例えばお菓子作りをしているが、自宅キッチンではできない等の悩みを抱えている人のサポートもできそうだと考えた。
こうしたことは、今回プロジェクトにコーディネーターとして携わっているN9.5という会社の齊藤志野歩さん他4名のメンバーや設計を担当されたビオフォルム環境デザイン室の山田貴宏さんらと出会い、彼らと話をするなかからでてきたものだという。
講演では、その出会いの背景や、打合せとコンセプトについてのブレストを繰り返し行った様子も紹介された。
▼「okatteにしおぎ」の発想の原点
1)コンセプトの発想の原点となったのは、祖父母の家。昭和30年代の祖父母の家を示しながら、竹之内さんは梅干しを祖母と漬けたりした記憶もあり、昔風の広い台所がプロジェクト実現によいと思ったという。
2)さらにプロジェクト実現のために自分の好きな「サマーウォーズ」というアニメの中に、「栄おばあちゃん」という89歳のおばあさんが出てきて、彼女が家族にあてた手紙の一文「一番いけないのは、お腹がすいていることと一人でいることだから」からヒントを得た。地球が破滅する時でもごはんをたべ、家族と一緒にいなさいという一文は、東日本大震災のときにもツイッターで拡散され、個食化している現状にとても必要なことだと思ったそうだ。
▼「okatteにしおぎ」には、アイディアが一杯
講演では、建物「okatteにしおぎ」の内部も紹介された。子供のいる人には畳があるほうがよい、料理教室用の台所はアイランド形のほうがよい等、ワークショップ形式で20人ほどの人に集まってもらい、利用を想定したアイディアを出しあった。設計面では国産木材の使用、太陽光を取り入れるための天窓、ペレットストーブ等環境に配慮した工夫を行い、伝統的な工法で作られた。現場が自宅敷地内なので、毎日大工さんが手作りで建てている進行の様子をみることができたという。
「okatteにしおぎ」メンバーになる際の説明会の流れ、会費、活動の説明があった。具体的には、メンバーは30歳代中心で女性が90%。自転車圏内、中央線沿線内の住人で、子供のいるワーキングウーマンから、シャツ職人まで職業はさまざま。クリエーティブ、ソーシャル系の人が多いようだ。主だったイベントも紹介され、多いときで40-60名の参加者があるという。会員が主導する●●部のような分科会も作られ、さまざま企画がおこなわれているという
▼新しいくらしの器「okatteにしおぎ」―集まり・楽しみ・効率よく・面白く
竹之内さんは、「okatteのおもしろさは消費者(お客様)にはならない、でもボランティアでもないという。『サービスを提供して、お客様は神様です』という従来の供給側と需要側の立場という関係ではなく、自分のできることや持っているものを持ち寄りいい関係ができることと考えている。“オープンで対等な関係”、つまり、競争的になりがちになるような関係ではなく、ばらばらの他人同士が集まって一緒にプロセスを楽しみながら結果を出す面白さを引き出したい。
また、小商いの可能性の場としても活用したいという。小商いとはお互いの顔が見える小さな市場で自分が創るクラフトマンシップを発揮し、市場拡大より、持続することを重視するビジネスのあり方。大きく拡大しようとすると縛りがでるが、小商いという形ならトライアンドエラーができ、楽しい社会が作れるのではないか。また、これからはご近所の資源を活用する。例えば、近所の某有名ホールの支配人やワインアドバイザー資格をもっている人に『ご近所大学』のような講座をお願いしたり、こども食堂等で皆で楽しく食事をしたり、近所の庭の梅や果物をとなどをとってジャムにして配る等の活動をしていきたい。他の地域たとえば秋田の野菜をみなで料理して食す会を開催しネットで発信し、自然に仲間になるようなネットワークを創るのもよいのではないか」とも語った。
さらに上智大学NEXST100委員会ウーマンネットワークの活動でチョコレートを作成する体験ワークショップ(カカオラボ)も紹介された。
最後に「会員になりたい人は説明会を開催しているのでご興味のある方は是非いらして下さい」と締めくくられた。
▼質問コーナー
会場からは、メンバーの条件等、入会についての具体的な質問が出た。賛同者のみに会員になってもらうという主旨を説明され、意見交換が行われた。そして竹之内さんの学生時代の思い出と仕事については「三水会幹事の黒水さんといっしょの放送研究会サークルで一号館のスタジオに入りびたりだった。マーケティングの仕事は大学院のときにバイトをしていたところに転がり込んだのがきっかけ。得意な分野は定性調査。主な領域は消費財で、食品や化粧品が中心。」と語られた。
▼感想
ご自分のなさってきた経験をベースとされ、シェアハウスの「okatteにしおぎ」を立ち上げ、仕事や地域活性にもつながる活動をライフスタイルにとりこみ自然体でされている竹之内さんのお話し興味深く伺った。特に講演の中で「所有する」感覚から皆とくらしをシェアして自分に残された人生を共に生きるという考えに感動した。今後のご活躍を御祈りする。(報告 山田洋子 ’77外独)