■講演テーマ:「難民をどう考える?~世界から見る日本」
■日 時: 2015年11月19日(木) 18:30~20:50
■場 所: ソフィアンズ・クラブ
■講 師: 石川 えりさん(1999年法学部国際関係法学科卒)
認定NPO法人 難民支援協会(Japan Association for Refugees)代表理事
http://www.refugee.or.jp
■参加者数:30名
※この講演録は当日の同録音声から主要な箇所を文章に書き起こし加筆・修正したものです。

1_正面写真RIMG19188
石川えり氏

<プロフィール>
’94年のルワンダにおける内戦を機に難民問題への関心を深め、在学中に当認定NPO法人の立ち上げに参加。卒業後、企業勤務を経て2001年より難民支援協会に入職。直後からアフガニスタン難民支援担当、日本初の難民認定関連法改正に携わる。2008年同協会の事務局長になり、2014年12月代表理事に就任。現在は特に支援事業部(難民への個別支援)等を統括。著書に『支援者のための難民保護講座』(現代人文社)、『外国人法とローヤリング』(学陽書房)、『難民・強制移動研究のフロンティア』(現代人文社)がある。

これでいいのか日本の難民政策 ―問われる日本の支援姿勢―

黒水幹事(司会)「今世界では、特に欧州は難民問題で大きく揺れています。翻って日本はどうでしょうか?平成26年度の難民認定は僅か11名と他諸国に比べて大きく見劣りしています。果たしてこれは対岸の火事でしょうか?日本はこの難民問題にどう取り組むべきか?本日は、難民問題に在学中から取り組まれてきたJAR石川代表理事に問題点と今後のあるべき対応について講演いただきます。」

2_黒水幹事オープニング挨拶 RIMG19195

3_講演のテーマについて説明される石川さんRIMG19207

▼高校時代から難民問題に興味を持ち上智へ入学

石川(演者):「私は、1994年に高校生時代にルワンダの内戦と難民の惨状をニュースで知り、たいへん心を痛め、なんとかこのルワンダ難民問題をどうにかできないかと思い、上智大学に入学しました。高校時代から公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本の活動に参加していましたが、ルワンダにわざわざ行かなくても日本にも難民の人がいるということに気づき、日本での難民支援の活動を開始しました。
1999年3月の卒業前の2月に難民支援するNPOの団体を立ちあげる準備会をたちあげ、同年7月に設立するに至りました。当時は、まず企業に就職し、社会人として働きながら、ボランティアとして難民支援活動に関わっていましたが、外務省からの支援もあり、難民支援協会にスタッフとして入ることになりました。そしてその年の1カ月後に、アメリカで「9.11」のテロ事件が起こり、タリバンから逃れてきたアフガニスタンの人たちが多く来日し、その人たちの支援から、関わるようになりました。そして、2002年には北朝鮮から逃れた人が中国の日本領事館に逃げこみましたが、中国側にもどされてしまう事件がおこりました。それを受けて日本としても難民問題に向き合わなければいけないのではないかという声が政府内でも上がってきたところから、難民に関する初めての法改正にもつながりました。そして、自分自身は難民支援に本格的に携わるようになってから、年月も経ち、結婚もし、4歳と6歳の息子の子育てをし、四ツ谷しんみち通りに近い事務所で働いています」と語った。
そして「今日の内容は、難民に関して基本的な情報をお伝えしたいと思いますが、日本に難民、外国人を受け入れること。海外でなく、日本に助けをもとめてきた人と、どのように向き合うか、自分と違う人たちとどう向き合うかが大きく問われています。それは自分ごととして考えないといけない問題で、本日は意見交換も後程行い、民間の機関として支援する立場なので、支援の実情についてお伝えしたいと思っています」とも軽快な口調で挨拶され、まず、難民支援協会についての説明のビデオが上映された。
https://www.youtube.com/watch?v=E06aAWytFKY

▼ノーベル賞受賞のアインシュタインも難民だった

石川さんによると難民は、難民条約に定められているという。紛争や人権侵害で命を守るため母国を逃れてきた人、そこでは、迫害をおそれて国外へ逃れた人という定義で、震災自然災害は入っていない。狭義の意味では亡命者に近いイメージがある。
実際に難民といっても、各人それぞれの状況によって、いろいろな人がいる。例えば:
日本に逃れてきて成田に到着したばかりの難民申請をする前の人、申請書類提出して結果を待っている人、認定されている人、不認定といわれたが日本に滞在できる人、難民は不認定だが、今後どうするか悩んでいる人、インドネシア難民、第三国定住という制度で受け入れられている人等々さまざまな状況の人がいるという。難民出身の著名人も紹介された(https://www.refugee.or.jp/hope/famous.shtml アインシュタイン、ハリルホジッチ(サッカー日本代表監督)等。

4_講演中の石川さん RIMG19223

5_講演の様子RIMG19250

▼増大する世界の難民は6,000万人(日本人口の半分に迫る)

石川さんによると難民条約上の定義は狭いが、難民となる迫害の理由は、同条約ができた50年以上前と異なり、多様化している。最近では、条約が制定された時代と異なり、温暖化による自然災害等で国がなくなりおわれた人もいるし、ISのように政府でない主体がでてきたことが原因の人もあり、条約に制定されていない状況で難民となった人が増えている。そのような状況下で、「難民条約を現代的に理解すること大切であり、どのように対応するのか大切であると感じています」と石川さんは語った。
2014年12月段階で世界では6000万人を超える人が難民となっている。これは、第二次世界大戦後、最悪の数字といわれている。国別にみると、最も多いのは10年以上アフガニスタンが1位だが、シリアが最近上回った。シリア難民の数量は、検索をするたびに数字は桁違いに増加している。南スーダン、ソマリアが続き、ミャンマーも昨年までは多かったが、民主化のプロセスが進み現在数は減っている。中国からの難民の数も多く、アメリカ、カナダでは中国が難民として認定された国籍の中で一番多数だったそうだ。
シリア難民の受入国としては、2015年現在最も多いのはトルコになっていて、少し前イスタンブールという一都市でヨーロッパ全体の難民数より多い数字だし、シリア国内やイラン、パキスタン等の近隣諸国にこそ多数の難民がいる。
「報道でヨーロッパに移動している難民の姿が多く伝えられるが、現実には、周辺国にも難民は多いということを共有させていただきたい」と石川さんは語った。また、ドイツが非常に多く2015年だけで100万が保護を求めて入国したといわれていてアフガニスタン、アフリカから大きな人の流れがヨーロッパに到達している。「トルコの200万人よりは少ない、さらにもっと多くの人がシリア国内にいるということはおさえていただきたいポイントです」と指摘された。 (参考:2016年1月現在でドイツの難民:約100万人と報道されている)

▼難民条約にアジアで加入しているのは日本と韓国―求められる貢献

今、難民条約に基づき、ヨーロッパではドイツが突出してシリア難民を受けいれているが、アジアでは難民を守るという意思や仕組みをもっている国は少ない。その中で日本と韓国は、アジアの中でも、難民条約に加入し、難民を保護する仕組みをもっている国で、「今後日本がどのように、難民受け入れの制度を発展させていくのか、アジアにとっても大切なことで、同時に日本にとっては非常に重い責任があり、貢献すべき立場にあり、日本は東アジアでは難民受け入れについては、貢献すべき国になっているという自覚をもっと持ってほしいと思います」と石川さんは指摘された。

▼日本の難民受け入れ数5,000人、認定者11名

日本の難民認定は一貫して少くなく、1982年から制度はスタートしているが、ここ3年で、難民受入数は5000名で認定者は11名と非常に少ない。2015年は7000名くらいになると予想される。申請は20倍に増加しても認定者数が非常に少ないのは問題である。
2008年に認定者数が多いのはミヤンマーで57名だが、ミャンマーの民主化が進むにつれて認定者数は減少し、現在の認定者数は少ない。難民の数はここ3年ほどで約1.5倍に増え、石川さんの団体は約4900名を支援している。

▼難民申請に必要な書類600枚―難民保護の姿勢がない日本

しかし、申請手続きには600枚にも及ぶ和文の書類を出すこともあり、日本語ができない難民の人にとっては、厳しい現実である (スライドで山のように積まれた書類が示され、会場から驚きの声があがった。)

6_講演の様子 難民申請に必要な書類のヴォリュームに会場から驚きの声 RIMG19260

 「これだけ説明しないといけない制度の壁の厚さの現実をみなさんにしってほしいと思います。背景には管理していこうという姿勢が日本の制度は強く、保護をしていこうという姿勢が少ないということがあります」と強く訴えられた。
そのような難民の人が日本政府に申請をして認定までに平均の短期間で約3年、結果が出るまで5年半もかかる人がいるし、長い人で8年認定を待っている人もいるというのが現実で、「明日、どうなるのかわからないのに、長期間認定を待つのは、厳しく、非常に胸が痛みます」とも石川さんは語った。
最後に、難民支援協会の事務所の様子が写真で紹介された。スーツケースを持っている人が典型的な姿で寒い日は暖を取るために事務所にくる人もいるそうだ。緒方貞子先生が以前務められたUNHCR国連難民高等弁務官事務所ともパートナーシップをとっている(同協会のホームページ参照)。難民支援のサービスは無償で行われ、行政の補助金があるわけではないため、協会への寄付を訴えられた。(さっそく当日の三水会2次会で有志による寄付が集められ\15,000が翌日振り込まれた。)

7_講演の様子RIMG19276

▼質問コーナー

日本の難民支援活動から難民条約と難民の定義、積極的平和主義を唱える政府について、さまざまな意見交換があり、さらに学生時代緒方貞子先生の感化を受けたことも披露された。「政府には、難民を受け入れるところから積極的平和主義になってほしい」と石川さんはコメントされた。
また2014年9月安倍首相が国連総会でシリア・イラク難民への経済支援方針表明後の難民の日本受け入れに関するロイター通信の質問に回答した内容が、世界を駆け巡った。 ロイター通信は「安倍首相、シリア難民受け入れより国内問題解決が先」とのタイトルで報じ、海外メディアでは大きく報道され、石川さんの事務所の電話は、海外メディアの問い合わせが殺到し忙殺されたそうだ。「Open Wallet, Closed Doors」という対比で語られてしまった。「安倍首相は、難民を受け入れないとは言っていないが、人口問題に切り替えられた逃げ方についても批判され、日本の難民受入数が少ないことは海外でも批判されているのが大変残念です」と語られた。

8_質問コーナー 回答する石川さんRIMG19310

9_質問コーナー RIMG19304

10_懇親会RIMG19329

▼感想

日本だけでなく世界の難民の現状やご自身の活動について、明快な口調で語られる石川さんのトークに引き込まれ、あっという間に時間がたってしまった。それにしても高校時代から難民問題に興味を持ち上智に入学し、尊敬する緒方貞子先生の薫陶を受け、自分の信じる道を進む石川さんには感銘した。「For Others, With Others」という上智の精神そのものの活動をされている。ご自身もネット、テレビやラジオ等で難民の現状について積極的に発信されているが、今後のさらなるご活躍に期待したい。(まとめ ’77外独 山田洋子)