■講演テーマ:「英語コミュニケーションのカギ:ポジティブ・イングリッシュの効用」
■日 時:2016年3月16日(水) 18:30~21:00
■場 所:ソフィアンズクラブ
■講 師:木村 和美(きむらかずみ)さん(’74年外国語学部英語学科卒)
    東京外国語大学英語講師
■参加者数 30名

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<木村 和美(きむらかずみ)さんプロフィール>

’74年卒業、三菱総合研究所に勤務後、日本語学校教師などを経て、ご主人の転勤でアルゼンチン、メキシコ、アメリカで海外生活を送る。ロスアンゼルスでは、UCLA大学院の応用言語学部で英語教育学(TESL)の修士号を取得後、サンタモニカカレッジで日本語を教えるなどして7年間滞在。帰国後は、東京外国語大学、慶應義塾大学、早稲田大学、中央大学などで英語や第二言語習得などを教える。アメリカで経験・研究した英語の文化や価値観に基づくコミュニケーション術「ポジテイィブイングリッシュ」を提唱し、英語のほめ言葉が持つパワーを国内で紹介している。著書に『ポジティブ・イングリッシュのすすめ―ほめる・はげます英語のパワー」(朝日新聞社)、『英語脳養成CDブック』(マキノ版)、『英会話ヂカラをアップ:魔法のフレーズ100』(ドメス出版)、『最新ポップスで学ぶ総合英語』南雲堂)などがある。

■「英語コミュニケーションのカギ:ポジティブ・イングリッシュの効用」

黒水(司会):「今日は、木村さんに英語のコミュニケーションだけでなく人間関係の発展にも役立つ『ほめる』英語を中心とした『ポジティブ・イングリッシュの効用』についてお話しいただきます。誰でも中学英語で簡単にほめられる基本パターンの紹介からほめることについての日米の文化背景の違いにもふれていただきます」

▼講師口上:

木村さんは、ご主人の海外転勤にともないアルゼンチン、メキシコ、アメリカと3つの国の異文化を体験された。「私ははじめにアルゼンチンにいきましたが、インフレがひどく、政治も不安定でしたが、ヨーロッパからの移民が多く、自分たちはヨーロッパの子孫ということで、とてもプライドがあります。一方、インディオの先住民が子孫のメキシコ人は親日的で、親切にしてもらいましたが、貧富の差が大きい国です」と当時を振り返えられた。その後アメリカへ転勤されたが、「この3つの国に共通していたのは、皆話すことが大好き、議論好き、そして良いと思ったら、すぐ口に出してほめる、ということです。特に、アメリカでは、ほめることがごく自然にやりとりされています」と話をはじめられた。

▼「ほめること」の大切さ―求められる日本語思考の決別

木村さんは、日本には、謙遜の美徳があり、目立ちたくない、おべっかを使っていると思われたくないという文化ですが、英語社会では、「ほめること」が英語のコミュニケーションの一つの特徴といえると指摘された。

その例として「Judyさんと田中さんのちぐはぐな会話」という英語としてのコミュニケーションが成り立っていない事例を示された。

Judyさんと田中さんのちぐはぐな会話
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ネクタイを褒められた男性が、「Thank you」 と返すのが英語流のところを、「いえいえ」と日本流の謙遜した返事をしている会話である。このように日本語モードで会話していると、そこで会話が終わり、コミュニケーションはおろか、人間関係も発展していかないので、ほめることは英語モードになる一つのプロセスだそうだ。

そこで、英語のコミュニケーションを効果的にとるのには、語彙の豊富さ、文法の知識が必要なのはもちろんだが、同時に英語のmind set マインドセット、英語の価値観・文化背景で英語を使うことも大切だと木村さんは強調された。英語力はあるのに、コミュニケーションで行き違いがあるのは、英語を使ってはいるものの、頭の中は日本語の思考、日本の価値観になっているからであるとも指摘された。

▼ポジティブ・イングリッシュの効用

木村さんは、人を「ほめること」には、ポジティブな考え方や価値観を反映した英語の表現やフレーズを用いることであり、それには、相手をポジティブな目線で見ることでまずスタートするという。そしてポジティブ・イングリッシュの効用について、次の4点をあげられた。

①会話をスムーズに、コミュニケーションを活発にする
②相手に自信を与える―>相手の力を引き出す
③自分もhappyになり、プラスとなる
④人間関係を推進する

さらにポジティブ・イングリッシュの代表格の「ほめる」という意味の英語表現のバリエーションを紹介した。

Praise(ほめる)、encourage(励ます)、recognize(認める)、appreciate(感謝する)、understand(理解する)

●praise は英英辞典では以下のように定義されている。 to say that you admire and approve of someone or something, especially publicly

木村さんは、英語社会では具体的にほめることとお世辞は、はっきり区別されていると強調する。
ほめる言葉の中でも、特に気軽に使える、小さいほめ言葉、complimentにスポットをあてられた。英語のコミュニケーションに特長的なのは、小さいほめ言葉、気軽にやりとりされるほめ言葉 それは英語でcompliment といい、英語の会話の中で重要な役割をはたしているという。

●complimentは以下のように定義されている。 a remark that expresses admiration of someone or something flattery (お世辞): to praise someone in order to please them or get something from them, even though you do not really mean it.

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▼ほめることの効用

木村さんは、ほめることの効用についてもふれられた。

①色々な場面での人間関係を広げ、深める
a.社会生活の潤滑油(social lubricant)となる。
社会の中の色々な営みをスムーズにさせるもの。あまり親しくない間柄、または全く知らない人の間で、ほめることは潤滑油になり、人間関係が始まるきっかけになる。
b.人間関係を深める (rapportを生み出す)。
 既に知っている人同士でも、さらに信頼関係、心の通い合いが深まる。
c.組織・グループの中の結束 (solidarity) を強める。

②相手に自信を与える 
a. ほめることは相手の良さ・個性に気がつくこと
マイナス面をプラス面と見てあげる。 
b. feeling of importance(重要感)を与えられる
c. やる気をひきだせる

③自分にも良い効果がある。
a.自分が信頼される。
b.相手を動かすことができる。

▼「ほめる」ことは難しくない

木村さんは、「ほめる」ことは決して難しいことではないと指摘された。

①相手の良さ・特別なことに気がつく。誰でも良いところがある。小さいことでもほめる材料になる。positive thinkingで相手を見る

②他の人と比較しない、自分や世間の基準に合わせない

③異なる価値観や考え方を理解しようとする。心を広くもつ。良いと思ったら口に出す(相手に伝える)
上記の発想で、ほめることは簡単に出来るという。

さらに、英語では意外と簡単なフレーズでほめられるという。その例としてWolfson(1984)が行ったおもしろい調査も示された。異なる性、年令、職業のさまざまなアメリカ人の日常会話から集めた約1200のcomplimentをパターンごとに分類したところ、9つのパターンだけで全体の約97%を占めている。

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そのデータを基に、中学生レベルの英語でも十分ほめられると強調され、日本人が簡単にほめられる、「5つの基本パターン」を提案された。

ほめることは簡単
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また、ほめることの上手なアメリカ人の表現(I’m proud of you! やGood try!など)や発想についても資料「ほめ上手・励まし上手なアメリカ人に学ぶ」で示された。

ほめ上手・励まし上手なアメリカ人に学ぶ
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▼「ほめる」文化背景の違い

木村さんは、「ほめる」ことの文化背景の違いについても触れられた(資料⑥)。日本と欧米との文化との違いを見てみると、①表現する文化としない文化、②率直が美徳の文化と謙遜が美徳の文化、③楽しむ文化と頑張る(努力する)文化 ④メッセージを素直に受け取るのが礼儀の文化とメッセージを否定するのが礼儀の文化などの違いがある。

ほめることの文化背景の違い
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そしてほめることの日本の例として山本五十六海軍連合艦隊司令長官の言葉「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」を引用された。

▼英語コミュニケーションに必要な心得6ヵ条 (資料⑦)

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木村さんは、日本の学校での英語教育は、文法、和訳中心の受信型で、「発信するためのもの、使うためのもの」という視点で教えられていない。「英語で発信できる」ようになる英語教育の必要性を強く訴えられた。そのための英語コミュニケーションの心得として次の6つのことをあげられた。

①カッコよく、英語を話そうと思わない
②間違っても良しとする 
③頭の中で和文英訳しない
④自分の言いたいことの日本語のレベルを下げる
⑤相手の話から質問を見つけて会話をつなげる
⑥日頃からニュースや新聞で情報に触れ、英語で話題を提供できるようにする

 特に印象深かったのは、木村さんが、「学生に間違っても良い」というと、「いいんですか!」とびっくりする。学生は、間違いは×、間違ったら終わり、正しい英語でなくてはいけない、と思いこんでいる。でも実際のコミュニケーションでは、間違ってもそれで終わりではなく、最後に自分の言いたいことが相手に伝われば良い。間違うといやだから、むしろ、黙っている、という人が最悪のケースで、欧米では黙っていることが一番、低い評価になり、自分も結局損をするという。

現在英語を第一言語とする人は、世界の全人口の5%に満たない。その一方、世界で英語を使う人は20億人に達する。ネイティブ崇拝を捨てて、間違えてもしょうがないと居直り、そこそこの英語でと励まされた。

▼質問コーナー

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質問の中では、日本人の謙遜の意識やスマイル、具体的なほめる英語について等意見交換があった。木村さんは、「レストランやお店でお礼をきちんと言葉で表すことが大切で、日常生活の会話を楽しむ材料として自然に楽しんでほしい」と述べられた。また学生時代の思い出として「もっと勉強しておけばよかったと思います。UCLAに留学する際、ニッセル神父様によい推薦状を書いていただきUCLAに入学できました。今ある私は上智大学の英語学科のおかげだと思い本当に感謝をしています」と述べられた。

▼感想

木村さんの話は、人柄があらわれるように、相手の存在をみとめ、ほめるという内容で、さりげない日常のことだが、日本社会においても大切なことだと思った。私自身、かつて台湾系アメリカ人経営の企業に在籍したが、ブロークンイングリッシュでもアメリカ人を部下にして、ビジネスをやっている多くのアジア系の人たちに出会った。礼儀は必要だが、日本人のように正しい英語にこだわるより、自分の意見をしっかりもつことの大切さをその時痛感したが、今回の講演は大変参考になった。一方、コムソフィア賞を受賞された鳥飼玖美子さん、つくば言語技術研究所の三森ゆりかさん等、さまざまな形で英語教育にたずさわり活躍されている卒業生の多いことを改めて実感した。最後に講師の著書もぜひ参照ください。『ポジティブ・イングリッシュのすすめ―「ほめる」「はげます」英語のパワー』(朝日新聞社・https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784022731685)(報告・1977年外独卒 山田洋子)

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