ゆびさきの宇宙
岩波書店刊 2015年2月17日発行、1,100円+税
生井久美子(’79文心)著
目が見えず、耳も聞こえない「盲ろう者」福島智東大教授の生きる軌跡を追った良書。体の底からうめき、
七転八倒する福島に寄り添いながら「生きることが最大の仕事」「よりよく生きること」「より豊かに生きること」という言葉に出会って、障害者が働くことは相互に支えあうこと、そしてこのことはあらゆる人に当てはまることに行き着く。
「ゆびさきの宇宙」とは自分の思いを他者に伝える「指点字」「指点字通訳」の実践であった。今回文庫本として新装出版されたが、2冊の本の印税は全額盲ろう者支援に届けられているのは感銘に絶えない。

羊と鋼の森
文藝春秋刊 2015年9月15日発行、1,500円+税
宮下奈都(’89文哲 2016年、第154回直木三十五賞候補、本屋大賞受賞)著
ピアノの蓋を開いて中を覗いたことがありますか? 中には羊がいるのです。それも森の中に……。
主人公は山で育った高校二年生。縁あってピアノの調律師にあこがれてゆく。羊毛でできているハンマーのフェルト。音の調律に針を刺したり削ったり。一人前の調律師になる過程を繊細な筆致でやさしく見守るような目なざし。失敗したり、いじめとも思われる厳格な指導。双子のピアノ姉妹に対する恋心など、主人公に寄り添う描写が好ましい。芥川賞の又吉直樹著『火花』の師弟関係を凌駕している良質な師弟小説だ。
作中にピアノのトップメーカー「リーゼンフーバー社」とあるが、著者の恩師リーゼンフーバー哲学科名誉教授の名を借りたと思われる。『夏の花』の作家・原民喜の言葉を引き合いにしながら心に沁みる興味深い一冊に仕上がっている。

風聞き草墓標
新潮社刊 2016年3月発行 1,800円+税
諸田玲子(’76文英・第9回コムソフィア賞受賞)著
元禄の財政危機を救った辣腕の勘定奉行・萩原重秀定の急死と不正発覚。その20年後の夏のさかり、重秀の嫡男の許嫁だった主人公せつのもとに町奉行・大岡越前の守が突然訪ねてきた。20余年前、大地震や富士の噴火が続くなか、財政を取り仕切った重秀の死にまつわる写本が出回り、関係者が不審な死を遂げていた。せつは否応もなく事件に巻き込まれ、重秀の嫡男と父が奉行を務める佐渡をめざして江戸を発つ。史実に基づくミステリー、歴史の暗部と父子の葛藤を見事に描き切った超大作。

これからの環境エネルギー―未来は地域で完結する小規模分散型社会
三和書籍刊 2015年4月20日発行 2,400円+税
鮎川ゆりか(’71外英・第21回コムソフィア賞受賞)著
 本書の特徴は、「エネルギー」の世界を「環境」という切り口で今後の日本社会の進むべき道を解説している点だ。環境に負荷を与えず、私たちの生活を快適にしてくれるエネルギー利用生活はどんなものかを描いている。それは地域が主体となり、そこで完結する小規模分散型社会である。これからはこうした型の社会がITでつながり、互いに情報やエネルギー、文化、生活物資を融通し合い、自然を資本と考える経済社会になるだろうと予測している。

本物の英語力―「英語の壁」を越えるための新常識
講談社現代新書 2016年2月20日発行 800円+税
鳥飼玖美子(’69外西・第20回コムソフィア賞受賞)著
日本人が過去英語教育に投じたエネルギーと金は天文学的といっていい。でも現実は英語が苦手な状態が続いている。長年日本人の英語教育に力を入れてきた著者の書いたこの本では、英語が苦手、英語が嫌い、必要だけど英語はやる気がしないなどの人のために英語学習の新たな視点を紹介。
基本原則は2つ。(1)ネイティブ・スピーカーを目指すのではなく自分が主体的に使える英語–「私の英語」を目指す。(2)英語を覚えようとするのではなく、知りたい内容、興味のある内容を学ぶこと、と著者は指摘する。

防諜捜査
文藝春秋刊 2016年04月20日発行 1,600円+税
今野敏(1979文新)著 
ロシア人ホステスの轢死事件が発生。事件はロシア人の殺し屋による暗殺だという証言者が現れた。
国益とプライドをかけた防諜戦争の行方は…?上智在学中に『怪物が街にやってくる』で第4回問題小説新人賞を受賞しデビューした天才サスペンンス小説家。膨大な数のシリーズがあるが、倉島警部補シリーズには『曙光の街』『白夜街道』『凍土の密約』などがあるが、待望の最新刊!

四月になれば彼女は
文藝春秋刊 2016年11月4日発行 1,512円
川村元気 (2001文新) 著
初めての小説『世界から猫が消えたなら』が100万部突破、続く『億男』も連続2回本屋大賞にノミネート。映画プロデューサーとしても『電車男』『告白』『悪人』『おおかみとこどもの雨と雪』『寄生獣』など次々にヒットを飛ばす。ちなみに現在中国を始め全世界でアニメ映画の記録を塗り替えている「君の名は。」も彼のプロデュース作品。2016年は『理系に学ぶ。』『超企画会議』などのハウツー本に加えて年末に『億男』から2年ぶりの小説として「四月になれば彼女は」を発刊。星野源に「川村元気そのもののような小説」と言わしめた「恋愛がなくなった世界」で、恋愛を求めてもがく男女の物語。