大統領とメディア 武市 英雄(1960文英 新聞学 上智大学名誉教授)
アメリカのトランプ大統領はメディアが嫌いなようである。この2月末にニューヨーク・タイムズやCNNテレビ、ロサンゼルス・タイムズ、イギリスのBBC、デイリー・メールなどを記者発表から締め出してしまった。逆に参加を認められているのはFOXテレビ、ウォールストリート・ジャーナルなどである。他に大統領側近のバノン首席戦略官が会長を務める右派系ニュースサイトのプライバート・ニュースなどである。大統領が気に入らないのは、一連のロシア関連の疑惑を報じたものである。AP通信やタイム誌は取材を認められたが、抗議の意を込めて辞退した。
トランプ大統領は「我々は偽ニュースと戦っている。彼らは国民の敵である」と一部の報道機関を批判した。政権に都合の悪い情報に「フェイク(偽)ニュース」のレッテルを貼り、報道の信ぴょう性を貶めている。とくにニューヨーク・タイムズやCNNは「もはや物笑いの種だ」と非難した。
これに対してニューヨーク・タイムズは「さまざまな取材をして来た長い歴史の中で、このようなことはなかった」と抗議した。CNNも「気に入らない記事への報復である」と反発した。さらにメディアが8年前の大統領就任式の写真と比べて、今回は人出が少なかったと報じたのに対して、政権高官は「もう一つの事実〈オールタナティブ・ファクト〉」と強弁したのも変な話しである。真実は一つしかないはずだ。
報道機関で批判される政権にとっては、メディアを批判したい気持ちはあるだろう。しかしメディアこそが最後のチック機関なのである。これを通ったら、まちがった事実が実行される。今のトランプ政権は、メディアの自由な取材と報道が民主主義に果たす役割を十分理解していないのではないか。これは戦後、日本がアメリカから学んだことなのである。そのアメリカの大統領がおかしくなっている。
大統領とメディアとの関係は古い。とくにフランクリン・D・ルーズベルトはメディアと有意義な関係を持っていた。在任期間12年間に998回も記者会見を開いている。年平均83回である。「炉辺談話」は有名で、アメリカ国民と対話をした。
年平均にすると、トルーマンが42回、アイゼンハワーが24回、ケネディが22回、ジョンソンが25回、ニクソンが7回、フォードが16回、カーターが26回などである。
記者会見をしばしばやった方が政権と国民との繋がりが良いと言えるのではないだろうか。たとえ、政権にとって不都合な場面があってもである。
日本のプレスと首相との関係はどうだろうか。質問が一般的で、あまり深い審議がない。アメリカでも日本でも、メディアは国と一般市民を結びつける関係にある。メディアを嫌う政権は国民との関係が薄くなってしまうだろう。