上智のテロワール:

 1967年法・法卒の村上博です。マスコミソフィア会に参加するようになったのは千葉県の加曽利貝塚、秋葉原のYKKもの作り館でのワークショップ等々「大人の社会見学会」を体験したことが、きっかけだったように記憶しています。月ごとの定例会議にも出席するようになり、そこでの会議の内容と実践活動で感じたのは、幹事の方々の上智大学、マスコミソフィア会へのあくまでも真摯な取り組みと情熱でした。それは大学在学中も卒業後にも経験したことのないものでした。

村上さん960x720 さて標題のテロワールですが、ブドウも人も成長する上で周りの環境が重要だということ。テロワールとは、そのブドウが育つ環境すべてのことです。さらに言えば、テロワールとは人間、土地、気候、生育作物という四つの要素が複雑に絡み合って成立しているとされています。

 ウイキぺディアによるとワイン、お茶、珈琲などの品種における生育地の地理、地勢、気候による特徴をさすフランス語で同じ地域の農地、土壌、気候、地形、農業技術が共通するため作物に特有の性能を与えるとあり、日本語ではカタカナで「テロワール」と表記されています。要はその作物における「生育環境」ということになるでしょうか。実際、ワイン関係者の間では「葡萄の栽培で最も大切なのはテロワールなんだよ!」みたいな感じで使われています。

 ここからはひどい無茶振りになりますが、これを上智大学に当てはめれば、さしずめ葡萄は学生、OB、教職員など上智に集う人間ということになるでしょうか?何年か前までは名前も顔も知らなかった者同士が、縁あって日本の首都、東京の中心地区、四谷紀尾井の地で出会い、勉学、研究、部活に勤しみ、師や友と混ざり合い、年ごとに変わる季節の移ろいとともに好む好まざるとに関係なく上智のテロワールに醸成され、より味わいのある人間に成熟してゆく。

 では上智のテロワールとは何か、まずその源流にはイエズ会宣教師、フランシスコ・ザビエルの志にまで遡るという壮大な文化的、歴史的環境があります。近年、単純に外国語に強い、グローバル化に対応した教育カテゴリーの充実といったような時代のトレンドを前面に打ち出す大学も増えていますが、上智の建学精神は江戸城時代に遡る真田堀跡地のグランド、明治時代の迎賓館・赤坂御用地、戦後米軍から払い下げられたキャンパス内のかまぼこ校舎、昭和の政治史の裏舞台として度々登場した福田家等々、その地勢学的環境、景観は時代の変遷とともに姿形を変えつつも、キリスト教ヒューマニズムを基盤とする「隣人性」と「国際性」という教育理念の実践の場を保持し、収斂させてきました。とくに「他者のために、他者とともに」の精神は昨今の世界情勢を考察する上でますます重要なキーワードとなっています。

 自分とテロワールという言葉の出会いは10年近く前に『イタリアワイン最強ガイド』という本を手にしたことに始まります。日本のレストランのワインは高すぎるとして発売当初は業界で物議を醸し出した内容で、未だに読まれているロングセラーです。ワイン好きでない人にも一読をお勧めします。闘うワイン商と呼ばれる、元ラガーマンだった著者の人間味あふれる素顔が随所に読み取れる良書です。

 前述したように上智のテロワールは真田堀や迎賓館・赤坂御用地等、歴史の断片を身近かに垣間みれる景観・生育環境のもとで醸成されてきました。ともすれば見失いがちですが、現代の大都市の中心地区では稀有とも言える自然環境の下で戦国、江戸、明治、大正、昭和、平成、令和の長きにわたり、なぜ、上智のテロワールは生き続け、発展してこれたのか。国際都市東京の都市伝説と言えるかもしれません。

 そんな歴史的、文化的、地政学的環境を背景に民族、宗教、文化などの多様性を認め合い、混ざり合いながら織りなされてゆく上智のテロワール。そこから上智の日々新たなるテロワールが生みだされ、人材が生まれ、育まれるのではないでしょうか。在校生やOBのみなさん、ご多忙な日々を過ごされておられることと思いますが、時には気軽に楽しめる「大人の社会見学会」にでも参加して上智のテロワールに触れてみませんか。 『最強ガイド』の著者も言っています。「ワインの最終的品質を決めるのは醸造家でもメーカーのトップでもワイナリーのオーナーでもない。日々、畑の土に接しながら葡萄畑でブドウと対話する人たちなのです」

 さあ、上智のテロワールで醸成された仲間たちとどんなワインで乾杯しましょうか。赤、白、泡? いや、とリあえずビールですかね(笑)

2022.03.16
マスコミ・ソフィア会常任幹事
村上博(1967年法法)