「ロシアが気に入らなければ、文字まで!?」

まずは、今回の通信のテーマにつながる個人史から。

48年間プロデューサーを続けてきた旅番組「遠くへ行きたい」(毎日曜朝YTV—NTV)が放送51年目に入るのを機会に番組を卒業することに当たって、次はどんなことするかなと考えた時、大学の社会人講座・ロシア語講座の案内を目にしました。「そういえば卒業以来、ロシア語に全く触れることなく過ごしてきたな・・・」
村田さん800x1066そんな訳で、折に触れ気になっていた《ロシア語》、トルストイやドストエフスキーを再び原語で読みたい、という永年の想いを遂げるべく講座通いを始めました。初級なら何とかなるだろうと、真新しい辞書片手に教室へ。54年ぶりの黒板のキリル文字!すっかり忘れていた文法や構文解釈が儘ならない時間ですが老化防止の頭の体操と割り切って、トルストイやドストエフスキーをロシア語で読むという楽しさがようやく身について、講座仲間との飲み会も学生時代よりも新鮮で、毎週の授業を楽しんでいました。

そこにやって来たのが「COVID19」そしてロシアのウクライナ侵略戦争。ここから、テーマです。
「COVID19」が始まった時を思い出してください。感染が広がり始めた頃に感染者本人やその家族、会社そして医療従事者の皆さんをも差別する言動が見受けられるようになりました。最近はそういう報道を目にすることはほとんどなくなりましたが、本当にそうでしょうか。実生活の中では、不快な差別やヘイトは絶えたのでしょうか。

そして《ロシア》です。プーチンが始めた侵略戦争はウクライナの人々の穏やかな生活を破壊しています。ウクライナ人民の必死の反抗は、プーチン独裁下でのプロパガンダがロシア市民にとっての情報源だとすれば、ロシアから反抗勢力の声が上がるとは思えません。一方、ロシア排除の動きは海外でも目に付くようになっています。経済制裁に加えて、ロシアが国家として関わっているスポーツ国際大会、国際交流、更には音楽コンクール(チャイコフスキー国際コンクール)までが連盟から除外されるというニュースも聞こえてきます。

ロシアが国家として行っている行為を国際的に制裁したり、排除するのは国家が相手ですから合点も行きますが、この制裁の影響を受けて今までと異なる暮らしを強いられることになるロシア国民や当事者たちが、国家のプロパガンダの向こうにあるものに疑問を待つようになるのを願うものです。

そんな中で、JR恵比寿駅の案内板が話題になりました。案内板のロシア語が紙で隠されたという話です。「なぜ?」という指摘を受けて元に戻されたニュースを目にした方も多いと思います。紙が外された日比谷線への案内板にはキリル文字、<Роппонги Нака-мегуро>があります。なぜ文字というか言葉が排斥されなければいけないのでしょうか。ウクライナ侵略が始まったときには銀座にあるロシア食材の店「赤の広場」に落書きがされたというニュースもありました。

ロシア語やお店に対しての差別意識、ヘイト行為というのはどういうことなんでしょうか?「COVID19」と同じくこういう差別やヘイトの報道を見るたびに、日本に当たり前のようにあった「寛容」という言葉は何処に行ってしまったのだろう?といつも感じています。一方で、自らも「どこかに潜んでいるかもしれない私の中の差別」について考えこむ日々を過ごしています。

そんなこんなの日々の中で、日本政府や機関のウクライナ支援や避難民への見事な対応に頷きながらも、ミャンマーやアフガニスタンの人々のことを忘れてはいけないのではないか、日本の入管に収容されている人々のことを忘れてはいけないのではないか・・・
「私にできることは、なんだろう?」///

2022.04.26
マスコミ・ソフィア会 常任幹事 前会長 
コムソフィア賞選考委員長
村田 亨(64外・露)