今月の「幹事会だより」は、最上龍平(1977年文新)が担当します。昨年からマスコミ・ソフィア会の常任幹事を担当させていただいています。

「音が聴こえた本」

 「じいじ、えっ?この本を読んでいないの? すごい面白いから読んでみて」。1月末、中学3年の孫娘が電話の向こうから、そう言うではありませんか。それは高校入試を控え、模試の国語で問題に出たという、宮下奈都さん著『羊と鋼の森』(文藝春秋)でした。この本が本屋大賞(2016年第13回)を受賞して話題になったのは知っていましたが、手に取ってはいませんでした。

mogami01ピアノの調律師を目指し、職に就き、仕事を通じて成長を遂げていく青年の物語です。孫に言われたら読まないわけにはいきません。即、買い求め、一日で読み終え、清々しさを感じさせるストーリーに感動すると同時に、ピアノを調律する記述が重ねられていく中で、その「音」が文字から伝わってくるのです。ご存じの方もいるかと思いますが、タイトルにある「羊」も「鋼」も本書で奏でられる「音」に関係しています。趣味で楽器を吹いているので音楽にはそれなりに慣れ親しんでいるのですが、文字を追うことで「音楽」を感じる不思議さ。(因みに宮下奈都さんは文学部哲学科卒業のソフィアンです。)

 実はそんな体感は3冊目のことでした。1冊目は、6年前に第156回直木賞を取って話題を呼んだ恩田陸さん著『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎 2016/9/23)を読んだ時でした。長編の中で繰り返される国際ピアノコンクールに賭ける青春群像の中からも、登場人物の奏でるピアノの音が聴こえてきました。審査会場のコンサートホールにいるような感覚が溢れてきたことを今も覚えています。

 もう1冊は、コミックで、石塚真一さん作の『BLUE GIANT』(小学館 2013/11/29 〜)。テナーサックスに魅せられ、音符も読めない全くの素人でありながら毎日毎日、河原に出かけ、独学で吹き続け、周囲を圧倒していくテクニックを身につけ、故郷・仙台から東京、ヨーロッパを経て、本場アメリカへと飛翔するストーリー。当然、多くのページで演奏している強烈な姿が描かれますが、音の表現は音符に加えて、バ行の濁音やパ行の半濁音だけなのです。そこでも、やはり音が聴こえ、見えてくるのです。その迫力はライブ会場にいるかのように伝わってきます。

 前者は刊行直後に読んでいましたが、後者は今年2月17日に全国公開されるアニメ映画を前に読み直しているさなかで、まさにそんな時の孫娘の一言が呼び水となり、「文字からの音」を再確認した次第です。ちなみに孫娘は『蜜蜂と遠雷』は未読ということで、ちょっぴり自慢げにプレゼントすることを約束しました。

 これらの本をご存じの方はある程度納得していただけるかもしれませんが、お読みになっていない方は何を間抜けなことを、とお感じになるかもしれません。人それぞれではありますが、文字や文章の力強さ、書籍やコミックの面白さ、素晴らしさが伝わることがあるということを改めて紹介させていただきました。

2023.02.03
マスコミ・ソフィア会 常任幹事
最上龍平(1977文新)

参考:
◎羊と鋼の森-宮下 奈都-2015/9/11(文庫本も出ています)
https://www.amazon.co.jp/dp/4163902945
◎蜜蜂と遠雷-恩田陸-2016/9/23(文庫本も出ています)
https://www.amazon.co.jp/dp/4344030036/
◎BLUE-GIANT-石塚-真-小学館-2013/11/29
https://www.amazon.co.jp/dp/4091856780
◎映画 BLUE GIANT
https://bluegiant-movie.jp/