幹事会だより

 今月の幹事会だよりは、小原るみ子(1972文社)がお届けします。

 日本には、1980年代2万5千を超える書店がありましたが、2022年には1万1000軒ほどにまで減少。ここのところ首都圏でも歴史ある大型書店の閉店が相次ぎ、四谷駅近くにあった2件の書店も今はありません。
 酷暑のこの夏、エアコンを味方に、積ん読になっていた本の山を低くしました。その中に、四ツ谷、キャンパス、メンストに私を連れ戻してくれた本が2冊あります。 遠藤周作氏の「深い河」が1冊目。生涯を通して追求した「キリト教と日本人」というテーマの最終章が描かれている晩年の作品。登場人物の一人である大津が足しげく通い、さらに召命の声を聞いた場所としてクルトゥルハイムが登場します。「上智大学予科に在籍していたことに触れられるのを極度に嫌がり、自作年譜にも載せていない徹底ぶり」と伝えられる彼が、どうして主人公2人に上智大生を感じさせ、なぜクルトゥルハイムが重要な舞台のひとつなのか。違和感を覚えながら主人公達と一緒にガンジス河までたどり着いた時、彼がずっと求めていたのは、厳しい父のような神ではなく、母のように優しく抱きしめてくれる神だったのではと、強く感じました。
 そして2冊目。2022年3月、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」で本物と鑑定された井上ひさし氏の未発表戯曲「うまー馬に乗ってこの世の外へー」。1560年代の戦国時代を舞台に、主人公・太郎が悪知恵を働かせ、金持ちから金をかすめ取っていくという、太郎の悪漢ぶりが痛快なピカレスク(悪漢)物語です。その刊行記念のトークイベントとして「井上ひさし過去から未来へ」が2023年1月に開催され、戯曲「うま」の朗読を受け持ったのは、浪曲家 玉川奈々福さん。第30回コムソフィア賞の受賞者です。
 今年で32回目となる「コムソフィア賞」の発表がありました。受賞者は、作家の今野敏さん(1979文新)。授賞式と受賞記念講演会は、来年になりますが、今野さんの講演を今から楽しみにしています。

マスコミ・ソフィア会 常任幹事
小原るみ子(1972文社)