マスコミ・ソフィア会会員の皆さま:

今月の「幹事会だより」は手島真理子(1973文仏)が担当いたします。

「小澤征良さんの受賞を振り返って」

 この一年ぐらい、常任幹事会ではコムソフィア賞についての議論が続きました。意見の違いも様々ありましたが、それもこれも皆がこの賞を会の重要な事業として位置付け、大切に継続していきたいという思いがあったからなのです。

 私は実は幹事になる前はこの賞についてあまり知識がなかったのですが、その後、これまでの経緯や受賞者などを振り返り、受賞された方の作品などを後追いで読んだり、見たり、聴いたりしています。選考は、確かな眼が求められますが、候補者の活動内容だけでなく、時機や発信力など様々な要素も絡んできます。選考委員会のあるメンバーは「実は選考する側の見識が問われる」と言っていました。

 今年2月に世界的指揮者の小澤征爾氏が亡くなられた折、その人柄を偲んで、受賞からもう20年も経っていますが、長女の小澤征良さん(1996比文 / 第13回コムソフィア賞濱口賞受賞 / 作家、サイトウ・キネン・オーケストラ代表)が書かれたエッセイ「おわらない夏」を読んでみました。小澤征爾氏はボストン交響楽団の主席指揮者として30年にわたり活躍してきましたが、楽団は夏の間は米国東部の山奥にある村タングルウッドで毎年音楽祭を開催し、小澤一家も近くの別荘で夏を過ごす。その子供の頃の思い出を綴ったエッセイです。読み進むにつれ、子供の時の出来事をよくこんなに鮮明に覚えているものだと驚きました。征良さんは「ビデオを再生するように思い出が蘇ってきて、それを文字に移しただけ。不思議な体験だった」と後述しています。

 小澤征爾氏はどんな長い曲でも、多くの曲でも楽譜を手元におかないで指揮をしていました。最近あるピアニストの方に小澤氏の記憶力の良さについて話をしたら、「楽器を演奏する人は誰でも楽譜を徹底的に暗譜する。まるで写真のように目に見たまま覚えている。私は若い頃、楽譜についているシワの数まで覚えているくらい、楽譜と向き合わなければいけないと言われた」と。そこまで!!きっとそんな努力で養われた緻密な記憶力と研ぎ澄まされた感覚が、征良さんに受け継がれているのでしょう。

 今年はまたどんな方が選ばれるのか。受賞記念講演も含めとても楽しみです。

2024・07・10
マスコミ・ソフィア会常任幹事
手島真理子(1973文仏)

参考:コムソフィア賞の歩み 
http://cumsophia.jp/wp/history/