日 時 : 2025年12月6日(土) 午後2時〜
会 場 : イグナチオ教会 岐部ホール4F404室
参加者:31名
講師 : 映画評論家 渡辺俊雄さん(元NHK 衛星映画劇場支配人 / 1972文英)
毎年恒例になった今年4回目の元NHK映画支配人の渡辺俊雄さんの講演会ですが、今回は「人権問題と差別」をテーマにした映画作品が紹介されました。 映画が「人権問題や差別の根源にある人々の無知を明らかにする役割を果たしている」と強調され、特にアメリカのアフリカ系の人々に対する人種差別やハンセン病など病気に対する差別に焦点を当てた作品が取り上げられました。『手錠のままの脱獄』、人種隔離時代の南部を扱った『グリーンブック』(Green Book)、NASAで働く黒人女性の物語『ドリーム』(原題: Hidden Figures)、そしてハンセン病患者とその家族を描いた日本映画『砂の器』などです。核心をつく重要なシーンや俳優についての渡辺さんのきめの細かい解説に耳を傾けながら、参加者全員、熱心に各作品を鑑賞しました。
司会のマスコミ・ソフィア会常任幹事、文化事業委員長、手島真理子の「まもなく開始します」という挨拶の直後、講演者渡辺さんは、開口一番に腕時計をみて「45秒前です」と発声。(会場が笑いに包まれました)
「アナウンサーをやっていると、時間がくると始めないといけないので、その通りにしましょう。5分前に席につき、20秒前に流れを確認する。よく原稿の順番に誤りがあるので、注意を怠らず、一番緊張する時間帯です」
と元NHKアナウンサーらしい側面をのぞかせました。さらに、テーマの「人権問題と差別」についてアナウンサーとしての言葉や表現に対するメディア側の規制や対応の仕方、言葉の変遷等ご自身の苦労された経験も具体的に織り交ぜながら講演は進められました。
「今回で 4回目のクリスマス講演会になりました。1回目は自己紹介をかねて、放送の中で映画を出す意味やなぜアナウンサーで入ったのに映画の仕事についてしまったのか等自分の話をし、2回目はリクエストでクリスマス映画の特集で、 昨年の3回目は高峰秀子さんの話をいたしました。今年はマスコミ・ソフィア会らしく社会的なことにちょっと挑んでみようというので、人権の話にしました。ちょうど、12月4日から10日までが、人権週間です。国連が1948年に採択した世界人権宣言を記念して、全ての人々の基本的人権の尊重を促進するための期間で、いじめとか虐待とか差別などの問題に焦点が当てられた活動が展開されています。会場には、アナウンサーを目指す若手の方もいらっしゃいますが、言葉が差別の問題で一番厄介です。特にアナウンサーは一番言葉に不自由な職業で、例えば、昔、「北朝鮮」は「朝鮮民主主義共和国」に言い換えなえればいけなかった。また、「気ちがい」という言葉は放送禁止で、仏映画「気ちがいピエロ」という有名な作品は、現在、フランス語の原題で表現するようになりました」
などなど、実況取材中の苦労話も披露されました。
前述のように言葉や表現に気を使っているテレビ局で、映画を放送するということは、映画館で上映するのとは、また別の表現に対する細かいチェックが必要となります。人種に関する表現は特に繊細で、例えば西部劇の「インディアン」に対しては、「先住民」という表現に置き換えたり、日本人のジャップという表現は、どのように放送するのか等言葉の選び方にたいへん苦労されました。最後に紹介されたハンセン病患者を描いた作品(『砂の器』『モーターサイクル・ダイアリーズ』)では、ハンセン病の病名も言い方が変化したことやチェ・ゲバラが優秀な医師でハンセン病患者と直接握手する場面が紹介され、「差別が生まれる理由としては、物を知らない人間が差別をしています。病のことをよく理解していれば差別はないし、恐れから隔離政策をとることがさらに人を傷つけることになります」と語られ、キューバの医療が発達していることなど、映画を通じ多岐にわたる内容の講演でした。
当日紹介された映画の内容は次の通りです。
人種差別を描いた作品
●『グリーンブック』(Green Book)は、2018年のアメリカ合衆国の伝記 ヒューマン映画。アフリカ系アメリカ人のピアニストが1962年に実際に行われたアメリカ最南部を回るコンサートツアーにインスパ イアされた作品
●『42 ~世界を変えた男~』2013年制作のアメリカ映画。アフリカ系アメリカ人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを描いた伝記映画。
●『ドリーム』(原題: Hidden Figures)は、2016年公開アメリカの伝記映画。マーゴット・リー・シェッタリーのノンフィクション小説『ドリー ム~NASAを支えた名もなき計算手たち~』を原作としている。
病気に対する差別を描いた作品
●ハンセン病への差別がもたらした悲劇を描いた日本映画「砂の器」。松本清張の原作を、1974年〔昭和49年〕に野村芳太郎監督、橋本忍&山田洋次脚本で映画化した社会派サスペンス。
●『モーターサイクル・ダイアリーズ』2004年公開。チェ・ゲバラの 若き日の南米旅行記『チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記』をもとにした製作=ロバート・レッドフォードと監督=ヴァルテル・サレスらの作品
その他 『アラバマ物語』 『フィラデルフィア』 『破戒』等差別を扱った作品として参考にあげられました。
感想
『グリーンブック』(Green Book)等1960年代のアメリカでのアフリカ系の人に対する露骨な差別が描かれた作品が紹介され、特に『42 ~世界を変えた男~』というジャッキー・ロビンソンというアフリカ系野球選手を描いた作品では、現在日本人も含めさまざまな人種の選手が活躍している大リーグでの数十年前までの状況を知り、愕然としました。また『ドリーム』(原題: Hidden Figures)という作品では、優秀なNASAのアフリカ系女性職員が自分の職場から離れたところにある黒人用のトイレに行くのに雨の中を走っているシーンも印象に残りました。さらに、日本社会での差別についても、考えさせられました。
参加者の声
「参加理由」としては、渡辺俊雄さんの講演だから、人権問題を考えるというテーマに興味を持ったからという声が多く、「とてもよかった」という方々からは「人権は人間の最も大切な行動・判断基準であることが映画の中で見事に表現されていた」「人種差別という繊細な問題を見事に浮彫にした名作が選ばれ、時代時代の判断や尺度を映像を通じて考えさせられた」「映画の内容と渡辺氏の解説が絶妙で感動した」等の感想がありました。
講演終了後、場所をソフィアンズクラブに移し、クリスマスパーティーが開催されました。
パーティーの司会は上智大学放送研究会の原 都さん(経経2年)、乾杯は元NHKで渡辺さんが仲人をされたという小笹俊一さん(1992外仏/ 経済ジャーナリスト、ライター)のご発声で参加者は渡辺さんを囲み、歓談しました。
今年も新たなテーマで素晴らしい映画をご紹介いただきたいと思います。
2026年01月09日
マスコミ・ソフィア会常任幹事
山田洋子(1977外独)
写真① 熱が籠る渡辺俊雄さんの講演

写真② 人権問題と映画を語る

写真③ 大越会長が講師と参加者に謝辞

写真④ パーティーの司会はSBCの原さん

写真⑤ 渡辺さんを囲んで記念撮影

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