劇団四季の未来像を語る──越智幸紀氏、熱く語り尽くす
コロナを越え、挑み続ける「作品主義」新戦略とは

講師 : 越智幸紀氏(1990経営) 劇団四季 取締役専務執行役員

 2026年1月31日、大寒を過ぎたばかりの東京・四谷。上智大学そばのイグナチオ教会・岐部ホールにて、 「2026年新春講演会」が開催されました。これは、マスコミ・ソフィア会の本年最初のイベント。会場には上智同窓生や演劇ファン約50名が集い、満員御礼の熱気です。
司会の手島真理子さんと大越武会長の温かい開会の言葉に続き、登壇したのは――劇団四季の取締役専務執行役員、越智幸紀氏(上智大学経済学部1990年卒)。スクリーンに『ライオンキング』や『アナと雪の女王』の映像が流れる中、越智氏は90分にわたって、華やかな舞台裏と劇団の未来戦略を熱く語りました。

地方の少年が見た“夢の舞台”

 講演はまず 、越智氏自身の原点から始まりました。
愛媛・今治の山間部で生まれ育ち、小学校までは片道4kmの通学路。寮生活を送った岡山の高校時代、方言の壁や孤独に悩む中で、国語教師に「文化祭の演劇台本を書いてみないか」と勧められたことが人生の転機となります。

 夏休みを費やして完成させた脚本を褒められたことで、「演じる喜び」へと火がつきました。
上智大学進学後は、自ら「アクターズスタジオ」という演劇サークルを立ち上げ、夜は文学座の夜間部で修行。パルコ劇場の「三人姉妹」に出演し(共演:椎名桔平氏)、映画『男はつらいよ』では上智の仲間をエキストラに手配するなど、活動の幅を広げていきました。映画では集めた当時の上智大学のチアリーダーや吹奏楽部の面々が荒川の土手でソフィアのユニフォーム姿で練習している場面が見られるそうです。

 その後、劇団四季の『夢から醒めた夢』を初めて観た瞬間、彼は涙が止まらなかったといいます。
「これこそが“人を幸せにする仕事”だ」と確信し、即座に入団を決意。あのとき客席に満ちていた笑顔が、今も心に焼きついて離れないと語りました。

1700人の“大劇団”に息づく精神

 越智氏の話によると、現在の劇団四季は驚くほどの規模です。
俳優700人、技術スタッフ550人、マネジメント450人――計1700人。会員数はおよそ20万人(中心層は40〜50代女性)にのぼり、全国7カ所に専用劇場を持ち、年間200カ所の地域公演を行っています。

 その始まりは1953年。創設者・浅利慶太氏と日下武史氏ら慶応・東大の学生による小さな学生劇団でした。当時の戦後演劇が左翼思想に傾く中、「演劇は観客を楽しませるもの」という加藤道夫の言葉を掲げ、市民に娯楽の喜びを取り戻そうとしたのです。
そして数々の転機を経て、現在の“エンタメ帝国”へと進化。
1960年代、ブロードウェイ・ミュージカルの導入( 『ウエスト・サイド物語』 ) 。
1983年、 『キャッツ』のテント公演がロングラン成功。
1995年にはディズニーとの提携、『ライオンキング』などで一気に観客層を広げました。
偉大な創設者・浅利氏が2014年に退任後も、弟子たちによって組織は合議制に。時代に即した新たな形へと進化を続けています。

会場を沸かせた「四季マジック」――母音法の秘密

 劇団四季を他の劇団と一線を画す存在にしているのは、次の4つの信念です。

1. スター個人に頼らない「作品主義」。
2. 知名度より実力を重視する俳優育成。
3. 独自の発声理論「母音法」による明瞭なセリフ表現。
4. 東京一極集中ではなく、全国ネットワークによる公演展開。

 特に、越智氏が実演した「母音法」は圧巻でした。小澤征爾氏の指導法に着想を得たというこの発声技術。その場に居合わせた観客からは「なるほど、だから四季のセリフは聞きやすいんだ!」と驚きの声が漏れました。

“四季”の次なる挑戦――未来への羅針盤

 新型コロナでライブエンタメ業界の売上が85%減にまで落ち込んだ中、劇団四季は奇跡的なV字回復を見せました。 しかし、越智氏は「これからが本当の勝負」と語ります。少子高齢、内需縮小化――2050年には今の主力層である30〜50代が高齢者層となり、演劇専業で食べていく未来図は不透明。
そんな状況を見据え、四季が掲げる“次の四つの戦略”が紹介されました。

1. オリジナル作品の量産体制 ― 海外原作依存からの脱却。
2. 多角経営の推進 ― 飲食・物販など新規事業開拓。
3. インバウンド強化と海外展開 ― 日本人観客頼みから脱却。
4. 未来の観客創造 ― 「こころの劇場」で子どもたちに無料観劇を提供。

 “四季”は、ただ演劇を続けるだけの集団ではありません。挑戦を恐れず 、常に次の時代を見据える「社会を元気にする劇団」 。越智氏の言葉を借りれば、劇団四季の使命は「人の心に希望の明かりを灯すこと」 。その熱が冷める気配はありません。

 90分近くにわたる講演の終わり、会場には大きな拍手が鳴り響きました。
あの日の四谷で語られた未来像――それは単なる企業戦略ではなく、“人を幸せにする力を信じる者たち”の宣言そのものでした。コロナ禍をも越え、歩みを止めない劇団四季。彼らが描く次の夢舞台から、ますます目が離せません。

2026年2月10日
常任幹事、事務局次長
土屋夏彦(1980理電)


写真1 劇団四季の越智氏の講演に聞き入る参加者

写真2 華やかな舞台裏と未来戦略を語る越智氏

写真3 懇親会では楽しいエピソードも飛び出す

写真4 越智氏を囲んで記念写真