マスコミ・ソフィア会会員の皆さま:

 今月の「幹事会だより」は、土屋夏彦(1980 理電)が担当します。現在、マスコミ・ソフィア会のホームページの運用・更新を担当させていただいています。

 今年の1月26日から3月29日までの1月クール(3ヶ月)のTBS系「金曜ドラマ」枠で放送された「不適切にもほどがある!」(ふてほど)をご存知でしょうか。脚本家・宮藤官九郎(クドカン)による完全オリジナル作品で、主演は阿部サダヲ。全話を通しての平均世帯視聴率は7.6%、注目度(個人全体)の平均は64.0%。この期間の冬ドラマとしては、世帯視聴率ではTBS系日曜劇場枠の「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」にランクを譲るも、13歳から49歳のいわゆる「コア視聴率」では見事1位を獲得しました。

「不適切にもほどがある!」は、コンプライアンスが厳しい令和時代(2024年、現代)とそうではなかった昭和時代(1986年、過去)を行ったり来たりするタイムスリップコメディ。なので年寄りには理解できるが若者には難しいと当初思われましたが、結果はなんと1986年時代をほぼ知らない20代〜40代の若年層に大受けだったというわけです。

ドラマの始まりには毎回「この作品には、不適切な台詞や喫煙シーンが含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、1986年当時の表現をあえて使用して放送します」というテロップが流れます。そして昭和の時代ではごくあたりまえだったセリフ、女子高生に向かって「パンツ見えそうなスカートを穿いて、痴漢してくださいと言っているようなもんだぞ」とか、「(女性の)部屋に上がった時点で(行為の)合意みてーなもんだろ」など、モラハラ、セクハラ、パワハラのオンパレード。

こうした昭和のセリフにいまの視聴者が反発することを見越してクドカンは、随所に反発に対する返答と受け取れるセリフも盛り込んでいます。「ダメだろ、オレなんて。口を開けば不適切だぜ」「だから、いいんだよ。今つまんないじゃないテレビ。当たり障りのない奴ばっかでさ」。そんな流れの中で主人公から不適切な言動が減っていく。これは不適切と糾弾されることに怯え、自分自身の本音と現実の矛盾に苦しみながら、だったら「適切」とは一体何かを改めて考えてみませんかというクドカンらしい時代風刺で、これが若年層の心に刺さったのではないかと言われています。

最終回の最後のテロップでは「この作品は不適切な台詞が多く含まれますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、2024年当時の表現をあえて使用して放送しました」と放送。つまり2024年の「適切」もあと数十年経てば「不適切」になりかねませんよ、ということを言っている。

若者たちがこうしたドラマで「適切/不適切」を見直してみようと柔軟な発想をめぐらす横で、我がメディアは「時代が変わったのだから」という理由から何でもかんでもバッサリ切り捨てています。時代はどんどん変わって行くのです。なら不変なものは何なのか、、、見逃した方はぜひオンデマンドで。

2024.04.12
マスコミ・ソフィア会 常任幹事
土屋夏彦(1980年 理電)

参考:「不適切」なドラマをどう受け取るか。『不適切にもほどがある!』が令和の私たちに問うもの(24/03/07)
https://niewmedia.com/specials/035004/
『不適切にもほどがある!』は令和版バック・トゥ・ザ・フューチャー!未来から見たら2024年は不適切だらけだった(24/04/01)
https://plus.tver.jp/news/157926/detail/